自作第一号機です。

 最初に自作したミキサーです。今から約30年前の作品?です。当時コンサートでは、機材はYAMAHAさんからレンタルしていましたので、やはり自前の機械が欲しくなるというのは時間の問題でした。どの位の規模のものが必要かということですが、当時の音楽事情から言うと8ch程度の使い回しでも可能なレベルでしたが、やはりもう少し余裕が欲しいということで入力は10chとしました。あと、エコーマシンへの送りとF/Bセンドが1系統あればとりあえずはOKということでAUXまわりは決定し、メイン出力は2chステレオ仕様にしました。なお、カラオケ等のLINE入力もこれとは別に2ch設けてあります。

 現在の機種はAUX-SENDは6ch程度ありますが、はねかえりには原則ボーカル程度しか返さないため、これでも十分でした。やはり、アコースティック中心でしたから設備も軽いもので済んだというのが本当の理由です。また、小屋が小さく生音を含めてバランスをとるというミキシングだったのも理由の一つです。

 この自作機は、当時ヒビノ音響さんがいしだあゆみさんの全国ツアー用に自作したミキサー(16ch)をモデルにしました。ヘッドアンプ等主要回路は同一の設計です。ただ、自作にあたっての一番の難関は予算ですね。特にフェーダは、いいものを使いたかったのですが、これでだけでプロ仕様のものを使用すれば、一本当り当時でも2万5000円位の価格でとても使用できませんでした。ヒビノさんは、プロですから東京光音のものを使用されていましたが、とても手が出ず、通常のスライドボリュームを使用しました。今では、アルプスさんが性能やタッチの優れたロングストロークのフェーダを驚く程の価格で個人向けにも販売されていますが、当時では秋葉原でもありませんでした。
 海外のコンソールで標準的に使用されていたP&Gの導電プラスティックフェーダなど夢のまた夢でした。

 回路を単純にした分、特にトラブルも無く、メーカ製を導入するまで使用しました。今から思うとパネル加工からはじめ、プリント基板を自分でおこしたことや、フェーダパネルをアルミ板から切り出し、細長い穴を加工したことなど良くやったと思います。製作には、半年程かかったと思います。
ライブに関わった方なら、その熱気と言いますか、その興奮と言いますか、ミキサーとして楽しい緊張感は何にも変えがたいものがあります。そのためには少しでもいい機材をまた、いかに使いこなすかという点にすべてを投入したと言っても過言ではないでしょう。

 当時、YAMAHAが初の本格的なPA用16chミキサーPM-1000を発売した時期で、YAMAHAさんでも現場には1台しか配備されていないという時代でした。たまにごいっしょさせて頂いたYAMAHAでPAを担当されている方から、このミキサーを誉められた時はとってもうれしかったのを覚えています。その方もダイレクトBOXや各種アダプタを自作されてライブで使用されていました。それで、自作する人の感覚や気持ちを理解して頂けたのだと思います。


 回路図もすでに紛失していて写真もよく残っていたというものですが、ヘッドアンプはFETで三段構成、PADは10dBタップでー50dBまで絞れるようにし、マイク・ライン兼用にしました。AMPのゲインを変えるという方法もあったのですが、レコーディング用ではないし、大出力のPAを行うわけでもないのでS/Nの若干の向上よりも単純化を優先したというのが本音の所です。

 現在では、24ch機が普通の感覚になってしまって、自分自身も随分と贅沢になったと思います。自分は少ないMICで良い音を録るということが基本だと思っています。MICを増やせば当然音が濁ってきます。よけいな音を拾うからですね。オンにセットしても影響は必ずあります。それで、ノイズゲートのお世話になったりするわけですが、それが本当にいいのかという疑問もあります。スッキリしすぎた音もおかしいし、現在のように圧縮しまくった音に疑問を感じなくなってしまった(リスナーが慣れさせられた?)ことも大いに問題ありと思っています。技術が進歩してダイナミックレンジが広がってきていながら、その中に入っているものは圧縮されているという矛盾です。自分が今聞いている音がそのままパッケージできる、あるいはPAできるという事が真の目的ですね。アーティストのプレイの結果。もちろん、技術者はアーティストではありませんから自分の個性を差し挟むことは慎まなければいけませんが、アーティストの要望を具体化できる能力は持っていなければなりません。また、提案は積極的に行うべきでしょう。そのコミニュケーションによってより良い作品ができあがるのですから。
 ミキサーは、アーティストとは技術者として対応すべきと思います。ただ、一般の技術者が関わる対象と異なるのは音という極めて感覚的な感性の必要な素材であるということだと思います。対象が自然音であったり、音楽であったり、時には無音をどう表現するかなんてこともあるのです。


 パネル構成は、6ch+4ch・マスター部分という配置になっています。一応、オーディションSWも付けましたが、使用しませんでした。手前のVUはECHO−SENDのレベルメータです。正面のVUは中央2個がメインの2chのOUTです。左右両端はF/Bです。


サイドからの写真です。左右の側面に持ち運び用のハンドルを付けるつもりでしたが付けていません。


斜めから

 外装は木製ですが、後にレザーを貼りました。筐体まで全自作というと結構パワーが要りますね。現在取り組んだら多分、根気が続かないと思います。外観を見ると何かNHKさんで使用していた中継用の機材に似ているような気がします。もっとも、こんなにみすぼらしくはありませんが。移動を前提に設計しましたので、パネル裏面には梁を入れてパネル強度を上げてあります。
やはり、加工で一番疲れたのはフェーダパネルの加工ですね。3mm厚のアルミ板を切断して、細長い穴をあけてと一番時間のかかった工作でした。また、プリント基板も自分でエッチングしました。
最初、右下部分の4chのモノラルミキサーとして製作したものをベースに10chのステレオミキサーに変更したものです。ですから、正確に言うと第2号機かもしれません。
現在では、chモジュールをバスカードで連結するというのが普通のスタイルですが、本機はすべてワイヤリングです。それで、シールド線もかなりの量を使用しています。この程度の規模のミキサーでも内部配線は大変な量になってしまいます。高域の減衰やノイズ混入、クロストークを考えると問題無しとは言えませんでした。アース廻りの配線には特に注意しました。電源は内蔵です。安定化電源モジュールを組み込んでいます。大変おおらかなパネル配置と必要機能に絞ったことで、使いやすいミキサーだったと言えると思います。(自分で作ったのですから、当たり前ですが。笑)